「あまり薬を飲みたくないんです」

「ぜひ治りたいんです」

どちらも外来で良く聞かれる患者さんからの言葉です。

病気を悪くしたいと考える人もいないですし、薬をたくさん飲みたいという人もいません。誰しも治りたいと思っているはずです(もちろん、一部の例外的な病気を除いてですが)。

疾病利得という言葉があります。病気になっているが故に、得られる利益(例えば心配してもらえる、仕事をしなくてもよい)のために、病気に”なり続ける”状態です。

だから、「ゼッタイ良くなりたい」という言葉の裏に、そういう気持ちが隠れていないかを吟味しながら診療することも大切です。特に、病気が慢性的になればなるほど、そういうことが起こってきます。

これは、患者さん本人のみならず、家族、周囲の人々でも起こりえます。

患者さんが病気であり続けることが、その人の利益になる場合があるのです。

人間というのは、様々な感情に支配されて生活しています。

中には醜い感情に支配されることもあります。

自分のより苦労している人、不幸な人がいることがその人の精神の安寧に繋がる場合です。

病気の人を心配するふりをして、あるいはその看病をしながら「まだ私の方がまし」「この人は、私がいないとだめな人だ」と思いながら(表面上でも、気持ちの深層でも、本人が気づいてないことが多い)生活しているのです。

共依存状態と言えますね。

だから、患者さんが治ろうとすると、それを止めたり、勝手に治療を中断したりするのです。とても不思議な現象ですが、病気が治ってしまうと、困るのは看病人と言うこともあり得るのです。

患者さんは本気で治りたいと思っている、でもその心配をしている近しい関係人がそれを巧妙にやめさせようとしている。

このような場合は、治療がとても大変です。ほとんどの場合、治りそうな状態で、受診が途絶えることがほとんどです。

人間とは不思議なものです。